当社では、下記の手順に沿って事業に影響を及ぼす可能性のあるリスク・機会の特定と財務的影響の算定、対応策の検討を行いました。
1 | 前提条件の設定 | 分析対象範囲(地域、事業)、時間軸の設定 |
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2 | リスク・機会の特定 事業インパクト評価 | TCFD提言で挙げられている、低炭素経済への移行に伴う4分野のリスクと気候変動の物理的影響に関連した2分野のリスク、そして気候変動への適応・緩和策に関する5分野の機会から事業継続において想定される影響を特定。「影響を受ける可能性」と「影響の大きさ」を点数化し、事業インパクトの大きいリスク・機会を抽出し、重要度を評価 |
3 | シナリオ分析 | 2で特定したリスク・機会のうち、影響度が高いと推定されるものについて2℃以下・2℃以上の各シナリオにおける当社事業への財務的影響を算定 |
4 | 対応策の検討 | 3の結果、事業インパクトの大きいリスク・機会について対応策や方針を検討 |
リスク・機会の特定、事業インパクト評価
影響を受ける可能性と影響の大きさを点数化し、事業インパクトの大きいリスク・機会を抽出しました。
移行リスク・物理リスク、機会
出典:最終報告書 気候関連財務情報開示タスクフォースによる提言(2017年6月)図1
シナリオ分析
IEA 移行リスク | IPCC 物理的リスク | |
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4℃ シナリオ | STEPS(Standerd Policies Scenario) ・2020年半ばまでに発表された、各国のエネギー構成やパリ協定下のNDC(GHG排出削減目標に関して国が決定した貢献内容等)に基づいたシナリオ ・2100年時点の気温上昇は+2.7℃ | RCP 8.5 ・2100年のGHG排出量の最大排出量に相当するシナリオ ・RCP8.5は将来あり得ると考えられる上限値であり、2100年時点の気温上昇は+4.4℃ |
2℃ シナリオ | SDS(Sustainable Development Scenario) ・パリ協定と完全に一致した道筋のシナリオ(気温上昇を2℃未満、できれば1.5℃に抑える努力) ・2070年までにCO2ネットゼロ達成 ・2100年時点の気温上昇は+1.5℃(2070年:+1.65℃) | RCP 2.6 ・将来の気温上昇を2℃以下に抑える、将来排出量の最も低いシナリオ ・2100年時点の気温上昇は+1.8℃ |
*RCP シナリオ | IPCC 第5次報告書の気候モデル予測で用いられる、温室効果ガスの代表的な濃度の仮定(シナリオ)を指す。 |
*出典:環境省「IPCC第5次評価報告書の概要 -第1作作業部会(自然科学的根拠)- (2014年12月版)」
IPCC「第5次評価報告書」のRCP8.5シナリオ、RCP2.6シナリオ
IEA「世界エネルギー見通し2021年版(WEO-2021)」のSDSシナリオ、STEPSシナリオ
分析結果
分類 ※この表は横にスクロールできます |
リスク・機会 | 潜在する主な財務的影響 | 財務的影響 2030年時点 |
想定 時間軸 |
対応策 | |||||||
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4℃ | 2℃ | |||||||||||
移 行 リ ス ク |
政策・ 法規制 |
各国の炭素排出 目標・政策 (炭素税) |
炭素税の導入や炭素税率の 上昇に伴う燃料・電力調達 コストの増加 |
直接費の増加 | 小 | 小 | 中・ 長期 |
・削減目標および目標達成のため の計画策定 |
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市場 | 原材料コストの 上昇 |
燃料・電力価格の上昇 | 間接費の増加 | 中 *長期的な価格上昇率の 想定が困難であるため 直近の上昇率のみを考慮 |
短~ 長期 |
・省エネ徹底による 運営費の増加抑制 ・創エネ設備の導入 |
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評判 | TCFD対応遅延による入社率低下 | 社員の評価低下による 離職率上昇・入社率低下 |
間接費の増加 | 小 | 長期 | ・気候変動への取り組みと 適切な情報開示 (社内・社外とも) |
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物 理 リ ス ク |
急性 | 異常気象の 激甚化 (洪水・台風) |
生産・物流拠点の被災による 操業停止 |
生産能力低下に伴う売上減少 | 中 | 小 | 中・ 長期 |
・BCP対応の強化 | ||||
サプライチェーンの寸断 | 生産能力低下に伴う売上減少 調達経路変更によるコスト増加 |
最大値 では大 |
・BCP対応の強化 ・代替材料の調達検討 |
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最小値 では小 |
最小値 では小 |
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機 会 |
製品・サービス | 低炭素製品・ サービスの 開発・拡大 |
デジタル・オンデマンド印刷 (低炭素製品・サービス)の 需要増加による収益拡大 |
商品とサービスへの需要増加に起因した 売上増加 |
大 | 短・ 中期 |
・気候変動により変化する 顧客嗜好をとらえた製品開発 ・低炭素製品の訴求強化 ・需要増大に備えた製品力の強化 |
*分析対象 :国内拠点 / マシン本体(プリンタ・プロッタ)
*財務的影響の尺度:小 … ~5,000万円 /中 … 5,000万円~5億円 /大 … 5億円~
*想定時間軸 :短期… 0~3年 /中期… 3~10年 /長期… 10年~
レジリエンスの向上
シナリオ分析の結果、今後の大きな気候変動関連リスクとしてコストの上昇(レピュテーション低下による人材不足対応を含む)、異常気象による調達難、そして機会としてはデジタル・オンデマンド印刷需要の増加が挙がりました。
具体的には、炭素税の導入やそれに伴う材料・エネルギーの価格高騰など、製品コストにかかわるリスクの発生が予想されました。対策として、コスト削減と同時に資源利用量の削減を進めるべく既に取組を開始しています。主な内容としてはインクや保守部品の梱包に使われるプラスチック緩衝材・段ボールの削減、それに伴う積載効率向上による出荷時の使用コンテナ数の削減、国内の主要拠点におけるCO2フリー電力や省資源設備の導入、そして製品であるマシン本体の設計・生産における使用部品数の削減、さらに環境負荷の低減・資源循環への貢献を可能にする新技術の開発・普及への尽力により、企業運営の面でも「必要な分だけ」使用する、省エネ・省資源徹底を当期から強化しております。
省資源化や省エネ促進に加え、環境負荷低減の取組への意識を社内で継続的に高め、今後は災害を含む異常事態に柔軟に対応できる体制を平素から整えることで、調達難を含む想定外の事態の影響を最小限に留めるために備えていきます。このためには、今後のサステナビリティ全般におけるマテリアリティー特定と目標達成のための計画実行が重要となります。
レピュテーションリスク低減のためにも今後、当社の技術がもたらす環境改善・維持への具体的な効果・メリットやESG対応全般の情報開示を充足させていくことで、社内外に当社の気候変動対応への対応姿勢を持続的に発信していきます。
最後に、当社の強みであるインクジェットプリンタはアナログ印刷の課題を解消します。従来の方式では欠かせない版を使った大量生産を行うと、余剰在庫の発生リスクを抱え、さらには版・在庫を保管する倉庫の管理も必要となる可能性がありますが、デジタル・オンデマンドプリントを使うことでそれらの懸念を払拭できます。気候変動対応の緊急性が叫ばれる中で、大量生産・大量消費からの脱却に資するこの技術がもたらす価値は、向上し続けると推測しています。この技術・製品の普及に尽力することで、当社はお客様先のビジネスの支援と同時に、環境負荷の削減、管理面の負担軽減をもサポートしています。その取組の拡大は、社会課題の解決の一助になると考えております。
お客様の持続可能なデジタル・プリンティングビジネスを支え、各本部によるリスクの低減・緩和と機会の最大化を通じて統合的なサステナビリティ向上を目指すことが、全社的なレジリエンス強化に繋がると考えております。
リスク管理
ミマキエンジニアリングでは、気候関連のリスク・機会を全本部より選出されたメンバーからなるプロジェクトチームで識別・評価し、社長をはじめとする社内取締役・一部執行役員と各本部責任者で組織するSDGs推進会議、ならびに取締役会への適宜報告により管理しています。
リスクの抽出 | 評価・分析 | 対策・管理 |
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TCFD最終提言ほか各機関の提言・発表等を参考に、マシン本体を取り扱う国内拠点を対象として気候変動関連リスクを抽出。 | 抽出したリスク・機会がもたらしうる事業への影響を点数評価しシナリオ毎に想定されるインパクトを分析。 そのなかで、影響度が大きいと推定される項目の財務的影響を算定。 |
財務的影響を算定した項目におけるリスク軽減ならびに機会増大のための対応策を検討。 SDGs推進会議、ならびに取締役会へ適宜報告し、対応策の承認を得て実際のリスクマネジメントやBCP策定に活用する。 目標と達成計画の策定後、経営計画に反映し毎月のSDGs推進会議でPDCAサイクルを回す。 |
コーポレート・ガバナンスに関する基本的な考え方と報告書を掲載しています。
- 戦略
当社におけるTCFDに関する戦略を掲載しています。
- リスク管理
当社におけるTCFDに関するリスク管理を掲載しています。
当社におけるTCFDに関する指標と目標を掲載しています。